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L'Uomo Vogue ティモシー・シャラメ インタビュー全訳

Timothée Chalamet : the photo shoot and interview for L’Uomo interview by John Ortved (23 Octorber 2019)
 

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Netflix作品 “The King” の主人公であるモンマスのヘンリー王子、別名ヘンリー五世とも呼ばれている“ハル*¹”に会った。夜通しの宴の末、彼は眠っている。この主人公を若手俳優ティモシー・シャラメ(ハリウッド界の貴公子とも謳われている...)が演じているなどというのは、にわかに信じがたいが、彼はこの時代背景を描くにあたって実践的な経験を多く積んでいる。“実のところ22か月間くらいぶっ続けで働いてるんだ” 彼の生まれ故郷、そして自身が育ち、才能を磨いたラガーディア芸術高校のあるニューヨークの地を忙しく歩きながら彼は言う。ジョエル・エドガートンとデヴィッド・ミショッドが演出を務めるシェイクスピアの史劇『ヘンリー五世』を描いた作品“The King”にシャラメが取り組み始めたのは昨年の春から夏頃であった。その前にはグレタ・ガーウィグが監督した作品“Little Women”で一途な青年ローリーを演じていた。私が彼に取材したときは、主演を務めたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF大作“Dune”の撮影がちょうど終わったタイミングであった。この繁忙ぶりもこれまでにあった大ブレイク俳優としての潮流の一つであるが、シャラメの場合、一世代前のレオナルド・ディカプリオの時と似つつも、フレッシュでホットなスターという扱いよりかは、今世代のスクリーンの顔といえば彼だろう、という印象を受ける。彼はこれまで、若者たちの愛を描いたルカ・グァダニーノ監督の“Call Me By Your Name”でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたほか、ガーウィグ監督の“Lady Bird”で共演したシアーシャ・ローナンとは、同監督の“Little Women”で再結集した。今のエンターテイメント界においてのシャラメの存在感を感じた出来事といえば、2019年の夏に、『若草物語』のリメイク版である今回の“Little Women”のトレーラーが公開されたときには全世界が沸いた。全世界ー少なくともネット上はー歓喜の渦に包まれた。そして映画祭のシーズンになれば、トロントやベルリンで話題になったのは賞レースについてではなかった。多くはヴェニスで行われた “The King”のプレミアに、Haider Ackermann(ハイダーアッカーマン)*²の近代的なグレーのルーズなテーラードスーツを身にまとったシャラメのファッションが話題に上ったのだ。その1週間後、ネット上は再びシャラメの話題で持ち切りだった。それは、イタリアのカプリ島で行われた船上挨拶に“The King”の共演者であり、プライベートでも彼のガールフレンドであるリリー・ローズ・デップと可愛らしくいちゃついている写真だった。この男の人気ぶりは“Chalatoriums”(シャラトリアム)と呼ぶことができるほどだろう。しかしその人気ぶりの中でも彼は非常に謙虚な青年である。NYへ戻る際に、彼は電話越しに私を待たせていることに対してすぐに謝った。(たった2分の遅刻だが...)彼は間違いなく礼儀正しくて、思慮深く、あらゆる機会において、他者に信頼を置くことを厭わない人柄であった。公開が待ち遠しい“Call Me By Your Name”の続編が迫っている今、出演作、生まれ育った町や彼に影響を与えた人々からアートまで、彼自身に語ってもらった。
 
 *¹ハル: ヘンリー5世を指す文芸批評用語。またティモシーのミドルネームはハル。

*²ティモシー衣装のデザインを担当しているのは、ハイダーアッカーマンヘッドデザイナーの豊嶋慧(とよしま けい)氏。

 


まさに”時の人”って感じだね!
このような機会を設けてくれてありがとう。
 
みんな君のことを“Timmy(ティミー)”と呼んでいるよね。君自身は何て呼ばれたい?
なんでも!たしか僕が16,17歳のころは普通にティモシーと呼んでほしいと言ってたな。多くの人と同じで、僕も自分のニックネームから卒業したかったんだ。まあ今では至る所でニックネームで呼ばれちゃうんだけどね。(笑)


 
公開を控えている”The King”と”Little Women”は大人へと成長していく過程や成熟について描いているけど、なにか自分の成長を感じるときはあった?
毎日が学びの連続だよ。まだ自分が大人になった感じがしないんだ。
 


NYから出てきた今、そこで過ごして成長してきた自分についてどう感じてる?
とても誇りに思っているよ。それと同時にそのことに甘んじないように謙虚にもなるね。NYにある公立の芸術高校に通っていた僕は若いうちから演劇に触れていた。NYというコンクリートジャングルを舞台に成長し、学ぶことが出来なければ間違いなく今の役者としての自分も自分という人間すらも存在していなかったと思う。僕はそのことに対してプライドを持つことより感謝と謙虚な気持ちを持つことを心掛けていた。プライドっていうものはあまり進んで持つべき感情だとは思わないんだよね。ところで君はどこの出身?
 
トロントで育ちました。
トロント好きだよ!NYに似てるけど、なんだかNYよりも落ち着くんだよね。
 


“The King”を描くにあたってシェイクスピアについては切っても切り離せないと思うけど、シェイクスピアについて勉強したりした?
僕自身シェイクスピア作品の経験は全くないんだけど、アラン・カミングの演じた“マクベス”とオスカー・アイザックが主演した“ハムレット”は観たことがあるよ、素晴らしかったね。気取った感じに映らないといいけど、僕もシェイクスピアの名作の一つに挑戦することにはとてもワクワクしたよ。真剣に打ち込んで食らいついていこうという気持ちがかなり大きかった。さらに意欲を掻き立てられたのがNetflixでのストリーミング形式の作品だったことだね。そうした作品の提示の仕方は、これから先の作品のあり方としても特に魅力的に感じた。
 
役作りにおいてどのような準備をしたのか少し教えてくれる?
Call Me By Your Nameではアカデミックで、統制の取れた撮影準備段階を経ていて、その経験がとても素晴らしいものだったんだ。だからThe Kingにおいてもその経験を実践してみた。毎日、調馬のトレーニングに、剣術のトレーニング、身体づくり、方言の練習…それを週に5,6日するんだ。毎日汗だくになって体を洗ってはゆすいでの繰り返しだったね、そんな日々が5,6週間続いた。夢かと思っちゃった。(笑)
本当にこれまでの作品の撮影準備のなかでも一番ありのままの生々しいクリエイティブな体験だった。
デヴィッド・ミショッド監督とジョエル・エドガートン監督と夕食を共にした際に、こっそり二人のことを観察しながら、この映画がどのようなものになろうとしているのかとか、どうやって自分が手を貸すことができるだろうかって考えた。これは今までに体験したことがなかった感覚だったよ。

 

 
君にはフォルスタフ(シェイクスピアの『ヘンリー4世』に出てくる騎士)のような自分の人生における指南役となる人物はいたりする?
学ぶべきことが多い、頼れる先輩はたくさんいるよ!今思い浮かべたのはアーミー・ハマーグレタ・ガーウィグ。あとは高校時代の恩師であるハリー・シップマン。この人がいなければ、僕は演技をしていなかったと思う。フォルスタフっていうと大酒飲みだけど、彼をバーで見たことはないよ。(笑)自分の年齢層以外の友人や学ぶことができる年上の人がいることは貴重なことだと思うね。
 
個人的にThe Kingで好きなのが、主人公は子供じみた考えを捨てることで名声を博することができたって描写なんだけど、君はこれまで何を置き去りにしてきたと思う?
素晴らしい質問だね。音楽、絵画、演技とかあらゆる方法で自分の芸術を実践することの多くは、自分の創造性をどのように発展させていくかということだと僕は思う。自分にもまだその答えはわからない。でも自分が何者かわからないからこそできることってあると思う。僕もまだその答えを探し続けている途中なんだ。人間の脳って25歳まで成長するらしいね。年を重ねるにつれて賢くなっていくことを願うけど、その方法なんてわからないし、僕はまだ成長過程にいると思ってる。
 
今夏、“Little Women”のトレーラーが公開されてファンたちは発狂しました。これほど注目度の高い映画において重要な役どころを担っている立場として、観客たちにどんなものを持ち帰ってほしい?
「芸術は見る者の目に宿る」*³と言うよね。僕の母さんも本と共に育ったんだ。今回題材となった若草物語の著者であるルイーザ・メイ・オルコットの偉大な作品は、今もなおインスピレーションを与え続けている。実はグレタの作品には何でも出演するつもりなんだ。グレタとシアーシャには本当にたくさんの感謝と愛が溢れる思いだよ。なんだかいろんな面で彼女たちにご一緒させてもらっているという感覚だね。(笑)

 

*³ Art (Beauty) is in the eye of the beholder: 諺で「たで食う虫も好きずき」の意味。

 


本という存在は多くの人、特に若い世代にとっては重要なものだよね。君にとって重要な本は何?
たくさんあるよ! “The Perks of Being Wallflower”(『ウォールフラワー』/スティーブン・チョボスキー著)とか。思春期の頃の今この世界で生きているんだという声をこれほどまでに捉えたものを読んだことがない。現代における思春期の心情についてだね。
 

 

グレタは君とシアーシャが一緒にいる様子を「たき火」と表現していたね。彼女はなぜその言葉を選んだと思う?
わからないな。(笑)僕的には、グレタは創造性の塊で天才肌だと思うし、シアーシャはとんでもない力を秘めた人でこれまで共演した人の中でも特に才能に溢れている一人だと感じる。グレタがたき火と表現したのは、僕たちがスクリーン上で有機的でリアルで自然な感じを醸し出してるからかなと思う。僕は彼女たちのことを深く知っている。だからこそ自分の醜い部分やカッコ悪いところを見せても彼女たちは僕の味方でいてくれるっていう信頼を置いて失敗のリスクを冒すことができるんだ。今まで本当に素晴らしい監督たちと仕事をしてきたけど、グレタ以上にこの感じを抱いたことはないよ。
 

 


映画だけでなく舞台の世界にも目を向けてる?
もちろん!ちょうどそのことを10日前にグレタとも話していたよ。演劇をすることほど素晴らしいことはないから、うまくいくタイミングが来たら是非やりたいな。実は今は映画においてのキャリアを積みたいんだ。映画の世界でどんなキャリアでも積んでいきたいと思っているから、映画の方を完全に離れるってことはできないと思う。
 

 


君は細くて素面だからフォルスタフとは違うけど(笑)、これからの役者の卵たちに何か伝えたいアドバイスはあるかな?
何も知らなくても突き進んで大丈夫だよ、ってことかな。僕はこのアドバイスの忠実な実践者ではなくて、むしろすぐなんでも知りたくなって眠れなくなるタチなんだけど。今の時代は特に具体的な計画がなくても、とにかく良い仕事をするだけで他のことを心配する必要はないと思うよ。
 
 


ずばり「良い仕事」とは?
さっきも言った「芸術は見る者の目に宿る」って言葉。つまり見る者から感情的な反応を引き出せれば何でもいいんだ。そしてそれは真実に迫ることでもある。
こんな風に簡単にしか表現できなくて申し訳ないんだけど、でもこの考えに対してシニカルにならないことの大切さを強調しておきたい。真実とは何なのか、反映するものは何なのか。選択肢として考えるなら、反映され得るものは何かという選択になり、それは例えばストーリーや環境や世界観であったりする。少なくともこれ以外のことには妥協しないことが大切かな。